第四章 キャスティングをパワーアップするべし

実際のキャスティングでは、フライをもっと遠くのポイントまで飛ばすことが必要となってくるのだ。そのためには@ラインの方向性を高めることやA長いラインを繰り出すことが必要となってくるのだ。バックキャストとフォワードキャストを何回か繰り返すことで方向を調整し距離にあわせたラインを繰り出したりする。このバックキャストとフォワードキャストを繰り返す動作を、キャストでフライをプレゼンテーションしないことから偽りのキャスト(フォルスキャスト)というのだよ。

さて、これで十分釣りが出来るようになって来たはずなのだが、僕らの欲望には限りがなくてもっと遠くへ飛ばしたい、もっと遠くの魚を釣りたいと言う気持ちが大きくなってくるだろう。

そのために、新しい形状のラインが開発されたり新しいテーパーデザインやアクションのロッドが開発されたりと道具(タックル)の進歩もとどまらないのだが僕ら釣り人のキャスティング技術も進歩させよう。

もっと遠くまでフライを運びたい

小さなフライを遠くまで運ぶための技術として要求されることは1.ラインのパワーを上げること、2.ラインの直進性を高めることそして3.長いラインを空中に保持できることなどが上げられる。

それぞれの要求を満たすためにはロッドに与える荷重をいかにロス無くフライに伝達できるかと言う一点にかかってくるのだが、それにはいくつかの技術要素があるのでそれをあげてみよう。

1.ラインのパワーを上げる
ロッドを良く曲げることで復元力が高まって結果としてラインにパワーが加わる。しかしこの方法はオーバーパワーになり結果テーリングを起こしたりラインスラックを発生させたりと言うリスクも発生するのだ。
2.ラインの直進性を高める
これはラインのループ幅を狭めることで空気抵抗を減らし方向性を高めることが出来るはずだ。ループ幅を狭める方法は「第三章 キャスティングを覚えないと釣りは出来ない」で解説したのですでに理解できているだろう。
3.長いラインを空中に保持できる
長いラインを空中に保持するためにはバックキャストとフォワードキャストの際のロッドの移動距離(ストローク)を長くしてやれば良いのだがラインが長くなればなるほどその質量により重力が増しラインは落下してしまう。それはラインスピードを上げることで可能になる。
運動エネルギーについて考えてみる

実は、前に挙げた3つのポイントは全て運動エネルギーを増やしてあげることで解決するのだ。それではどうしたら運動エネルギーを増やすことが出来るのだろうか?まずは、フライキャスティングにおける運動エネルギーについて教えよう。運動エネルギーは次の式により表される。

エネルギー

▲運動エネルギーは質量に比例して増加する

▲運動エネルギーは速度の2乗に比例して増加する

上記から運動エネルギーを増やすためには次のようにすれば良い事になる。

1.フライラインの質量を増やす>>フライラインを高番手の物にすれば可能だが、実は#5ラインの質量を倍にするとすれば#10ライン程度に変更することになり釣りとして全く現実的ではなくなってしまう。

2.フライラインの速度を上げる>>フライラインの速度を上げるためにはロッドの初速を上げてやれば良いが現実的にそれも有効ではないだろう。実はラインの移動距離を増やしてやることで実質の速度を上げることが可能なのだ。もし仮に1mの移動距離を2mに増やしたとすれば速度は1m/sから2m/sに増えることになる。しかも運動エネルギーは速度の2乗に比例するのだから運動エネルギーは4倍になる。質量を2倍にしてもエネルギーは2倍にしかならないが移動距離を2倍にすればエネルギーは4倍になるのだよ。これはすごいと思わないかい。

運動エネルギーを効率良く増やすためにはラインの移動距離を増やすことが有効であることが解っただろうか。それではどうやってラインの移動距離を増やすか考えてみよう。

1.フォルスキャストでフライラインを50cm移動させた場合
10mのフライラインをホールをせずにフォルスキャストをして一秒間に50cmラインが移動したとする。ラインの質量は10mで10gとする。このときのラインの速度は1m/sとなり運動エネルギーは1.25Jとなる。この1.25Jの運動エネルギーを基本に運動エネルギーを増やす方法を考えてみよう。
 

エネルギー

2.ホールを1m加えた場合
前記の条件に0.5m/sのホールを加えるとラインの移動距離は合計1mとなる。速度は1m/sとなり運動エネルギーは前記の4倍の5Jとなるのだ。キャスティングにホールが有効な事が解っただろうか。

エネルギー

3.更にストロークを増やしてみる
ストロークを2倍に増やしたと仮定する。それに伴いホールの長さも2倍になったとしよう。計算上はラインの速度は2m/s、運動エネルギーは20Jとなりホール無しの場合の16倍の運動エネルギーが発生したことになる。これはキャスティングフォームをレギュラースタイルからオープンスタイルに変え腕の移動距離を増やすことで実現できるだろう。但しストロークを増やすことでラインの直進性に対するリスクは増えるがこれは練習で克服出来るだろう。

エネルギー

4.ホールの長さを増やせないかな
これまでホールの方向はロッドやガイドの抵抗を極力減らすためにロッドティップの方向と反対側にするよう教えられてきたが昨今、別な考え方を示す先輩方もいるようだ。ここでは理屈の正否を問うのではなく更にホールの距離を長くする事だけを考慮しているのでお間違いなきよう。旧来バックキャスト時のホールの方向はロッドティップと反対側である前方に引いていたのだがこのラインハンドを真下まで引いてみたらどうだろうか、更にホールの開始位置をリールの位置からストリッピングガイドの位置まで移動してみよう。ホールの距離は更に長くなるはずだ。これでホールのストロークが1.2mになったとするとどうだろう。計算上はラインの速度は2.2m/s、運動エネルギーは24.2Jとなりホール無しの場合の約20倍の運動エネルギーが発生したことになる。これらの計算は机上の大まかな計算であり実際の値とは大きく異なるだろうがホールの長さとストロークを大きくすることでベリーの弛まないハイスピード・ハイラインへの道が限りなく近づくって言う事にならないだろうか。

エネルギー

効率の良いキャスティングのために

本章の最初にロッドを曲げることで復元力が増しパワーを得ることが出来る旨の記述をした。これは間違いではないのだが人間が意識してロッドを曲げようとした時に必要以上の力が入ったりする事で、望まないロッドの変化が生じる危険性が高くなる。ロッドはあくまでも自然な力が加わることで自然な振動をし、スムーズな運動が行われると言う事を覚えておいてほしい。

不必要な力が及ぼす悪影響を知ろう
テイリングループ
テイリングはビギナーには特に避けて通れないキャスティングの罠である。もちろん風の影響だったりすることもあるのだが9割以上は君のキャスティングが原因なのだ。ほとんどは不要な力の入れすぎによる結末だと思って間違いない。でも安心しなさい、ベテランと言われる人でさえ、目の前の突然のライズを発見した時など、いとも簡単に作り出せるテクニックなのだから(笑)テイリングが起きる原因はロッドは曲がると言うロッドの特性にあるのだ。下図を見てみよう、フォワードキャストでロッドグリップを平行移動した場合の絵を描いたのだが、バックのポーズ位置から前方にグリップが移動を始めるとロッドの弾性によりロッドは曲がりだす。これによりロッドティップの高低差が生じる事となりティップの軌跡は移動の中間で大きくへこむことになる。フライラインはロッドティップの軌跡に追従することから前方に投げ出されたループがさらに増幅されてテイリングループを作り出すのだ。これは、遠くまで投げようと思って急なリストダウンをしたりとか、とにかく不要な力を加えることで発生する無用の長物なのだ。結果としてラインとリーダーがぶつかったりウィンドノットなんかが出来たりしてしまう。まさに百害あって一利無しとはテイリングループのためにある言葉なのだよ。

エネルギー

テイリングを起こさないキャストとは
ティップの極端な高低差を作り出さないためにはティップ位置をそろえることを考えるのだ。前に述べたようにロッドは必ず曲がるのだから曲がりの大きさに合わせてロッドのグリップの高低を調整してやれば良いのだよ。実際はそれにリストの動きが加わって完璧なグリップの軌跡が出来るのだけどね。下図はロッドハンドの軌跡を書いたものだがロッドハンドは直進するのではなく円運動することを理解しよう。

ロッドの軌跡

ラインスラックの原因はこれだ
ラインがロッドティップを追い越す前の不自然な軌跡がテーリングを起こす事は解っただろうか、実はロッドティップを超えるまでのラインの挙動はフライラインのティップ側に現れるのだよ。と言う事は、ロッドティップを追い越した後のロッドティップの影響はフライラインのベリー側に現れると言う事なのだよ。ラインベリーに出るラインの乱れは停止後のロッドティップの振動が原因と言う事なのだ。ロッドティップが@の振動をするとラインには@’の軌跡が現れる。同様にAにロッドが動くとA’の軌跡が出る。これがベリー側のラインスラックになるのだ。それを回避するにはスムーズにロッドティップを停止させることに他ならない。

ロッドの軌跡

効率の良いキャスティングとは

まとめとして僕が考える効率の良いキャスティングについて書いておこう。別途キャスティングレッスンのページにまとめるつもりだが簡単にメモしておくことにしよう

ロッドは曲げない
ロッドを曲げようとすると不要な力が入ってロッドの軌跡を乱すことになる。ロッドはライン負荷で自然に曲がるので余計な力を加えないことだ。ロッドグリップは力を抜いて握りロッドハンドは前後に真っ直ぐ移動させるだけに専念することだ。急激なスタートやストップもティップの過度な振動を起こすので極力行わない。もちろんリストダウンなんてしないのだ。
ホールは出来るだけ長く大きく行う
キャスティングに必要なパワーはラインの速度で決まる。これはロッドを振る速度を上げることではなくラインの移動距離を増やすことだ。但しラインストロークを増やすことはしない。なぜならストロークが長くなることでロッドグリップの移動する軌跡を乱すリスクを増やすからだ、ラインの速度を上げるのはホールのみで行う。ホールはストリッピングガイドを起点に大きく円を描くように行う。しかも一回一回止めるような動きを行わずスムーズな回転運動で行う。
ホールのタイミングはここだけだ
ホールはライン速度を上げるだけが目的だ。効率の良いホールとはラインがロッドにもガイドにも触れない状態で行うのが理想なのだ。(もちろん理屈の話だけどね)しかし、本当に摩擦が少ないタイミングはあるのだ。ロッドの抵抗を感じないでスッとホールできる位置が必ずある。ホールはロッドが一番曲がったときに軽く引き始めロッドが真っ直ぐ立ったときに一番大きくホールするのが絶妙のタイミングなのだ。ロッドの抵抗を感じるのはロッドをフライラインによる不要な力で曲げようとしているのに他ならないし、ラインスピードを上げることにも非効率なのだ。